第9回 我が国における食品の品質衛生管理のすがた
2014.12.15
J・FSD㈱ 池亀公和
今年も気が付いてみると世間はすっかり晦日に突入しており、クリスマスムードも高まっているのに驚いているのは私がもう年寄りのせいだろうか。
特に今年は仕事の都合から札幌のマンションに独居老人として住み込んでいる日が多いせいか、年末の寒さと雪の中の生活環境から晦日の空気がさらに厳しく感じるように思う今日この頃である。
そのような中で、食品製造の世界では最も食品安全に注意が必要な時期になっているのも忘れてはならない。10年17年前の食中毒発生状況では、表1.にあるように8月をピークとして発生があったが、25年ではその数はかなり減少し年間を通じて食中毒の発生がみられ、近年はこのような傾向が続いている。
この原因はもちろんノロウイルスということであるが、その発生状況は表2.のように12月から急激に増加し、その勢いは3月ごろまで続いている。10年以上前までは食中毒は夏場に発生するということが常識となっており、食品業界では5月6月となるとその対策を強化するなどの動きが出ていた。しかしながら、近年は食中毒が通年で発生しており、食品メーカーでは特に衛生活動を強化するような時機を失ってしまった感すらある。
図1.でお分かりのように、近年では食中毒の原因物質としては圧倒的にノロウイルスが増え、しかも毎年年末から急増していることを考えると食品製造業としては今こそが食の安全を強化しなければならない時期といえよう。
ではどのような対策が考えられるかというと、まずはノロウイルスについての知識を深めることだ。 加熱によるウイルスの失活化には加熱温度と時間以外に、存在するウイルス粒子の数及びウイルスが存在する環境(乾燥状態か液体の中か、有機物が多いか少ないか、pHなど)によっても影響を受ける。食品中に存在するウイルスはタンパク質などで保護されているため、失活化を確実なものとするには、より厳しい加熱条件が必要とされている。
コーデックス委員会が2012年に定めた「食品中のウイルスの制御のための食品衛生一般原則の適用に関するガイドライン CAC/GL 79-2012」において、二枚貝の加熱調理でウイルスを失活させるには中心部が85~90℃で少なくとも90秒間の加熱が必要とされており、大量調理施設衛生管理マニュアルについても平成25年10月に85℃1分から上記のように改正された。
また、二枚貝などの食品からの摂取による感染以外に、むしろ多く発生しているのが二次汚染によるものであり、コラム第5回に記載したようなトイレの対策は最も重要と考える。しかし、12日以上前にノロウイルスに汚染されたカーペットを通じて、感染が起きた事例も知られており、時間が経っても、患者の吐ぶつ、ふん便やそれらにより汚染された床や手袋などには、感染力のあるウイルスが残っている可能性があることから、作業中のあらゆる可能性を抽出して対策を練る必要がある。
米国では、平均すると、毎年ノロウイルスが原因で死亡者570~800人、入院患者56,000~71,000人、救急外来患者40万人、外来患者170万~190万人が発生しているという報告もあり、年間の総患者数は1,900万~2,100万人といわれている。
我が国の食品衛生においても大変重要な食中毒原因物質であり、各食品メーカ及び食品取扱業者においては、今こそ対策の強化が望まれる。